唾液

3. 唾液細菌叢の概日リズムがどのような刺激・シグナルによって起こるのか

    唾液細菌叢は生体内部の変化に敏感に反応
    次の実験段階として、唾液細菌叢の概日リズムがどのような刺激・シグナルによって起こるのかを確かめるために、試験管内に唾液細菌叢を放置し、口腔内の刺激・シグナルを断った状態にしてみることにしました。
    すると、概日リズムは完全に消失してしまいました。

    このことから唾液細菌叢は、口腔内粘膜における概日リズムシグナルに応答していることが考えられました。
    しかし、具体的なシグナルについてはわかっておらず、今後の研究課題となっています。

    一方、唾液細菌叢のメタゲノム解析から得られた約370種類の機能モジュールのうち、24時間周期で明確に増減するものとして55のモジュールを特定できています。これらの機能を調べてみると、膜トランスポーターや2成分系などの環境応答にかかわる遺伝子群は夜間に増殖し、ビタミンや脂肪酸合成などの代謝にかかわる遺伝子群は昼間に増殖することがわかりました。

    これは細菌種とも連動しており、夜間に増えるストレプトコッカスやガメラは環境応答と、昼間に増えるブレボテラは代謝とリンクしていることがわかりました。

    こうした研究から、ヒトの唾液細菌叢は概日リズムを持ち、細胞や臓器のように生体内部の生理状態の変化に敏感に反応する性質があることが明らかになりました。今後、唾液細菌叢の働きと役割についての解明がさらに進んでくれば、腸内細菌叢でも研究が進んでいるように、唾液細菌叢を用いてストレスや健康状態の評価、疾患の早期発見や鑑別診断などを行えるようになることが期待されます。

    唾液の採取は、血液採取や便採取とは異なり、簡便で非侵襲であることから新しい検査法としても有益であります。これからは腸内細菌叢に加え、唾液細菌叢の活用について大いに注目していきたいと思います。

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    武内 光晴

    武内 光晴

    武内デンタルクリニック 院長 歯科医師

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